「お前はこんなことをやれる立場じゃない。私の口添え一つで、お前なんて死刑だぞ」
「そんなの……わかってるよ!!」
俺たちは力を籠めあい、マウントポジションを取ろうとやってた。この女、まさか床に背中を付けた状態から上半身の力だけで、直角くらいまで来られた。そしてそのまま俺を押し倒そうとして来てたが、そこはさっきの発言が肝になって俺の内なる力が解放されたらしい。
それでなんとか押し返して、今はちょうどお互いに中間地点で押し合ってた。
ググ……グググ……
――と必死に押し合う。けど俺たちはふと思った。
「おい、これってなんか意味あるのか?」
「さあ、貴様が失礼な事を言ったからだろう。やめたかったら、謝るんだな」
「お前が生娘だってのは認めただろ?」
「そもそもが変な勘違いを女性相手にするのがダメなんだ」
まさかこんな風に責められるなんて……今までの女はいつだって従順なやつばかりだった。でもそもそもがこの女は俺よりも強い……このままやってても実際負けるのは俺だろう。
マウントポジションからここまで押し返されたのだから、実際腕力だって向こうがある。なら……ここら辺が落としどころなんだろう。本当ならこいつを押し倒して支配したいくらいだが……でもそれは無理だ。
「くっ……覚えてろよ。わ……わるかっ――」
「ふん!!」
「――ぐへ!?」
いきなり殴られた。拮抗してたと思ってた力はやっぱりだけどそんなことはなかった。いきなり頭突きをかまされて目の前がチカチカとしてる間に俺はなんかこの家の端っこの方へと投げられた。そして気づく。落ちたと同時になんか床がガコンと変な感触なのに。
一瞬文句を垂れようかと思ったが、なんかあの女が人差し指で俺の下の床を指さしてる。そしてさらに冷静になって周囲の音を聞くと、なにやらがやがやとした音がきこえた。それに剣が鎧にぶつかるようなそんな音。俺は床を確かめて引っ掛かりがあるのを確認。するとそこには人一人は入れそうな収納があった。
なのでそれに俺は飛び込む。それと同時だった。
「失礼します」
言い方はそんな感じで丁寧だった。けど、その行動は全然丁寧なんてものじゃない。なにせこっちの返事は全くもって待ってなんかないからだ。いきなりこの家に押し入ってきた。それも一人じゃない。四人が一気に入ってきた。あの女を入れてこれで五人がこの家にいることになる。めっちゃ狭い。
「貴方だけですか?」
「見てわかりませんか? この家には私だけですよ」
「何もない部屋ですね?」
「ただ仕事が終わったら返ってくるだけなので、必要ないんですよ」
ドキドキする。僅かでもこの上にきたらきっと違和感を伝えるだろう。けど狭さが相まって、視線だけでこの家の事は把握できる。全く家具がない事で見て回る……ってこともしなくて済むんだ。そのおかげか、彼らは入ってきた位置から全く持って動かなかった。
「そうですか、一応聞きますがこの男に見覚えは?」
「いえ、誰ですかそれ? 何をやらかしたら軍に追われるなんて事?」
「脱走者ですよ。お恥ずかしながら、軍から逃げ出しまして。その際、新しい武器を持ち逃げしました」
「なかなか大胆な事を。まあ見かけたらしばいて引き渡しましょう」
「お願いします」
そんなやり取りをして彼らは去っていった。ほっと胸をなでおろす。どうやら今来たのは下っ端だったから、この女が実は俺と面識があるとか、わかってなかったんだろう。そこら辺知ってたら、色々と怪しい会話だった。
「おい出てこい。少し長いしすぎたな。さっさと仕事にとりかかるぞ」
そんな事をいってこの女は床を蹴ってくる。