「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
俺は走った。蟻型の砂獣を足蹴にして一気に距離を詰める。けど――
「ぐふっ!?」
――横からのタックル。それによって、頭が揺れる。そして更にあふれる様にいる砂獣にぶつかった。砂ならまだこの衝撃を逃がすことができたかもしれない。けど砂獣は硬かった。身体からバキバキとしてはいけない音が聞こえる。
そんな中、彼女を突き刺した角を持つ砂獣が身体をふるって、角から彼女を振り落とした。まるで糸が切れた振り子の様に彼女の脚はフラフラと踊り……そして角から時は成れて空中に放り出される。
下にはそんな彼女を狙うかのように更に別の砂獣がいた。両腕を鎌のようにした砂獣だ。細い体躯だが、三角形みたいな顔が上をみてる。彼女をねらってる。今の無防備な状態であんなのを喰らえば……きっと見るも無惨な姿になるだろう。既に遅いのかもしれないが……それでも!
俺はぶつかった蟻型の砂獣に剣を突き立てて身体を起き上がらせる。その時、この戦場で戦ってる他の奴らが、後方から一斉に蟻達をおしもどしてくれる。それをありがたく思いながら、俺は彼女を狙ってる砂獣に向かう。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお! ――あっ!?」
俺はまっすぐにむかった。それはきっと一刻でも……一秒でも早く彼女のそばに行きたかったからだ。けどそんな俺はきっと良い獲物だったのだろう。
それでも反応してた剣でガードしてたつもりだった。剣で弾いて、それから奴の身体を伝って比較的細い首を切って彼女の元へ……そんな狙いがあった。けど……それは絵空事だった。そんな計画を強くなった砂獣はただその力で蹂躙する。
鮮血が舞う。誰のだ? ――とおもった。けどすぐに理解する。俺の身体から力が抜けていくのがわかる。そう、俺がやられたんだ。あまりにも尖すぎて痛みさえもなかった。俺の目には落ちていく彼女が映る。
その手が伸びてるのに気づく。それがこっちに向いてれば、少しは満足できたのだろうか? けど違う。彼女の手は空の方に向いてた。
その先には彼女の憧れる存在……勇者がいる。
(ああ、やっぱり……)
俺はそう思うしかできなかった。けどきっと笑えてたと思う。だって俺たちはそんな関係じゃない。そして彼女の思いだって俺はわかってた。
だから……これはわかってたことだ。彼女が最後に思い浮かべるのが誰か……それは絶対に俺じゃないって。