「お願いだ聖剣よ。あれを防げる……貫ける力を……その形を教えてくれ!!」
前の……元の世界ではこんな風に聖剣が形を変える……なんてのは考えたこともなかった。聖剣はだって、聖剣だからこそ完成してる――そう思ってたからだ。けどそれはきっと聖剣の……そして自分自身の可能性を潰してしまう行為だったんだろう。まあもしかしたら、あのときは本当に不可能……だったのかもしれない。
自分が今や勇者とは違う存在になった時、一緒に取り込まれた聖剣も違う存在へとなってしまった。だからこそ、こんな風に意思を伝えてきて、そして形まで変化できる様になった可能性はある。
前はそれこそ、どれだけ聖剣の力を引き出せるか……それが勇者としての価値のような……そんな感じだった。けど今は違う。今は聖剣とも一緒に成長してる感じがある。
そしてもう一人……ノアだ。
『ちょっと旦那! もうちょっともうちょっとまってください!』
「いや駄目だ。もう来る!!」
いくらノアが弱音をはこうがこの扉の化け物はまってくれない。すでに数十の黒い光線は今にも発射されそうだ。一つだって見逃すことできない。だってこの黒い光線、一つ一つがそれぞれ世界を穿つだけの力をもってるんだ。
ノアのこの世界の力を変換する効率はそんなによくない。100の力があるとすると、その中の30を受け取って、残りはロストするくらいだ。それだけ世界の力の変換は難しい。
今回だってその変換効率は代わりはない。けど、世界から流れ込む力が膨大だからそれに応えようと聖剣はしてくれた。聖剣は2つの剣にわかれた。いやそれだけじゃない。なんか体に……そう腕、足、そして頭にパーツがひっついてる。
(今はこれが限界……)
そんな声が聞こえてきた。きれいな声だ。これが……聖剣の声。これまでも何度か話せたような……きこえた様な場面はあった。けどここまで明確にはなかったと思う。
「ありがとう」
どういう効果があるのかはわからない。けど、きっとやれる。そう自分は信じる。だってこれまで聖剣が期待をうらぎったことがあっただろうか? いやない!! 自分は前に出た。それと同時に、世界を穿つ黒い光線が一斉に放たれた。それも……
「なっ!?」
それはただまっすぐに進む……とかいうのじゃなかった。普通なら目標を決めてああいうのは撃つものだろう。アレだけの力だ。無駄打ちなんてしたくないと思うのが道理。けどそれはこっちの感覚なんだろう。あれがどういう存在なのか、いまいち自分たちは分かってない。
だからこそ、自分たちの常識で測ることなんてできない。黒い光線はまっすぐに進んで発射された物もあれば、斜めしたや真下、ましてや真上どんな方向にだってでてた。つまりはメチャクチャってことだ。けどだからこそ厄介極まりなかった。