「はっはっ……なんで……なんで返事くれないのよ!」
そう言って野々野小頭は走ってた。家から脱出して、向かうのは駅の方だ。なにせそっちからたくさんのサイレンの音がする。それに……だ。スマホで大川左之助たちのチャンネルを見てると、離れていってはいるが、そっちに居るのは間違いなかった。
かなりゴタゴタとした映像になってるけど、それもこの事態の切迫感なんてのが伝わってきて、視聴者はうなぎ登りである。他にもこの事態を伝えてるチャンネルはあるが、どうやら次々に配信が途絶えていってるみたいだ。
何故にそれがわかるのかというと、そんな報告が視聴者からもたらされるからだ。
『向こうの配信が途切れちゃったんでこっちに来ました』
そんなコメントが結構流れてる。きっとこの事態を配信してた人たちは欲が出たんだろう。なにせこんなセンセーショナルな事態……それを届けるだけで、今までにはないくらいに視聴者が稼げるはずだ。同時接続数とかうなぎ登りでだろう。
だからこそ、もっと……もっと……と思う。それに視聴者だって煽る人たちは居る。
『もっと行けるはず!』
『そうだそうだ!』
『いけるいける!!』
そんな無責任な言葉をただ視聴してる人たちは簡単に書き込むだろう。だって自分には関係ないんだから。そしてあんまり伸びてない配信者なら、それに乗せられてしまう。だってこれはチャンスだと思うからだ。
そして……そのまま……とかなる。かくして安全策を取ってるこのチャンネルに人が集まってくる。
「これ以上無茶しないでよね」
そんな事を願いながら、走る野々野小頭。すると目の前に一人の人が居ることに気づいた。別に道路に人がいる……それはなんの異変なんてない。世界にただ一人の人類じゃない。むしろ数十億の人類が居る星である。そこらに人はいる。けど……思わず足を止める野々野小頭。
そして眼の前の相手に明らかに警戒心をむける。素早く壁によった。
(あれって……まさか……)
道路の中央にたってるその人は、何やらフラフラとしてた。頭をブランとしたに下げて、振り子のようにその頭を振って右に行ったり左に行ったりしてた。それは流石にただの普通の人……と言えるような行動じゃない。
もしもこんな事態だとしらなかったら野々野小頭も「どうしたんですか?」と声をかけたかもしれない。けどある程度の情報が広まってる今……流石にそんな事はできなかった。だって一つの可能性が浮かぶからだ。
つまりはあの眼の前の人は……この事態で言われてる「おかしくなった人」では無いかということだ。