「えっと、ここではまずいから、きて」
いきなり平賀式部はそんなふうに言って立ち上がった。いきなりのその行動に戸惑う野々野足軽。もしかしたらすでに関係を切ろうとしてる? とか考えが飛躍してまう。
だって世間の評価的には、力に目覚めた人達に対しては二分してる。それは恐怖を抱く人達と、羨望を抱く人達だ。
恐怖は、得体がしれないからだ。今やニュースでは一日に1件は必ず新たな超能力に目覚めた事件が起きる。それは暴走であったり、力を使った犯罪であったりだ。
やっぱり超能力という力をもったら、人は気が大きくなる……みたいだ。善良な人なら、そんなことをするのはまずいとわかるが、力は人の善良さを選んで発現してはいない。
だからこそ、悪い人にも発現してる。そんなやつが力を手に入れたら何に使うか……なんてのは想像に固くない。だからこそ、もしかしたら平賀式部も超能力に嫌な印象をもってるのかも……とか思った。
「ほら、早く足軽くん」
手を取ってくれる平賀式部。その行為だけで、さっきまでの不安よりも、触れられた手に意識が持っていかれた野々野足軽である。男なんてそんなものだろう。そしてそのまま店を出て、暑い外へとでた。
店を出た瞬間に感じるモワッとした熱気。それにいつもは平賀式部は外に出るとすぐに日傘を使ってた。けど今はそれも忘れてるのか足早にすすむ。そして近くのカラオケ店へとはいった。更にすぐに部屋を選んで、料金の支払いも済ませてしまった。
男として「ここは俺が払うよ」――とかいう隙間なんてなかった野々野足軽。そして個室に二人で入って平賀式部は「ここなら大丈夫」といった。
「足軽くんも気をつけないと、今はそのワードは危険なんだからね」
「俺……危険だよな」
「ちがっ!? そうじゃなくて! 私が言ってるのは、超能力自体にいい印象を持ってる人ばかりじゃないってこと」
そんな風に言葉を重ねてくれる平賀式部。わかってるつもりの野々野足軽だったけど安直だったかもしれない。だから平賀式部はあんな所で彼自身が「超能力が発言した」なんていったから慌てたんだろう。
「すぐに警察に通報されたっておかしくないんだからね」
「うん……それで式部さんは……その……俺の事……もうイヤになったとかは?」
そして耳元で優しくこう言ってくれた。
「そんなこと……ない」
「うん、なら大丈夫」
そんな風に言ってくれる平賀式部。けどその横で野々野足軽はこうおもってた。
(だって、君と付き合う事になったときから俺は力を持ってた。つまりは変わりようなんてないんだから)