わざわざ誘われてる――それを承知して俺は進む。背の高い建物ばかりの中央だ。下の方はギラギラとしてる太陽の光さえも届かない様な薄暗さになってる。一応ところどころに明かりのようなものはあるが、でもこんなのじゃ、夜になる前に下の方は暗くなりそうだと思った。それに……中央はあれだけどでかい壁で周囲を覆ってるのもあるんだろう。上の方はそれこそ風が通り抜けてるが、下の方はなんか籠もった様な空気が……一言で言えば、臭い。
(刺客とかよりも、こいつらが先に襲って来そうだな)
人間、追い詰められたら何をしでかすかわからない。まあけど、そこまで勇気とかある奴がいるか? それにこの馬車じたいはアズバインバカラのやつだ。この人達的には、自分たちは無関係だと思う。でも……流石にそこまで区別できる様な教育を受けてるようにはみえないか。お金持ってそうで、裕福そうなら、彼らの恨みの対象にはなり得る。
「おいおい、勇者の旦那……ここはやばいっすぜ」
「とりあえず睨みを利かしておいてください。それだけでも効果はあります。みなさん、強面ですからね」
「おいおい、そりゃあねえぜ勇者の旦那!」
そう言って皆をとりあえず和ませる。ピリピリとしてるよりもこうやってワイワイやってた方が、向こうも襲いにくいだろう。それに本命以外にはなるべく近づいてほしくない……ないんだけど……なんか下の方に来て、道も舗装されてないし、なんかよくわからないものとか、散乱してて、あんまり早く動けないからか、後ろの方に列が……しかも子供がなんか多い。こんなの見せられたらな……流石に素通りなんて……
「なんか後ろいっぱいついて来てまっせ?」
「そうだね」
「どうします?」
「どうするっていっても……な」
ローワイヤさんが食料とかを分け与える――なんてありえないしな。そもそもきっと全然足りない。一人に与えたら、再現なんてなくなるのが目に見えてる。救うなら、ちゃんと救わないと意味なんてない。今、一つの食料を与えても、何も解決なんてしない。まあだけど、このままってのも後味悪いわけだけど……そしていつの間にか子供も大人も含めた大勢が俺達の馬車の後に続きつつ、俺達は行き止まりに出くわした。
「これは……やばいぞ勇者の旦那」
確かにこのまま姿を見せずにこの後ろに控えてる飢えに飢えた奴らに俺達を襲わせる気だったとしたらまずい。俺の計画的にね。
「食いもん……を」
「食べ物……ちょうだい……」
行き先がなくなったとわかったら、後ろの人々が迫ってきた。今まではついてくることしかなかったのに、自分たちが道を塞いでると知ったら、逃げ場なんてないって思って気が大きくなったのかもしれない。それにこっちはそんなに数がいないからな。向こうからしたら、どうにかなるかも……と思ってもおかしくない。実際はどうにもならないんだが……確かに賞金稼ぎの奴らだけなら、どうにでもなるだろう。でも……俺は彼らが何人で来ようが意に返すことなくあしらえる。それを別れって言う方が見た目だけなら無理……か。なら――
ダン!!
――と俺は地面を踏み込んだ。それによって、地面に俺を中心に亀裂がはいった。まあ威圧でも良かったが、この人達の弱りようだと、それだけで死ぬ可能性が否定できなかった。流石にこんな所で命を奪うなんてのは……な。しかもこの人達はただの一般市民だ。
「ひいい!?」
「な……なに?」
前にいた人たちが突然の出来事に腰を抜かして怯えてる。これで脅しになっただろう。俺は馬車をゆっくりと交代させるように指示をだす。するととうせんぼしてた民衆たちが端によっていく。効果はあったな。でもその時、なにか……いや、なにかじゃない。針が飛んできた。これまでもローワイヤさんを狙った針。いくらやっても俺がいる限り無駄撃ちなのによくやる――とかおもってたが違う。こっちにこない。
そしてその針は俺達の周りに集まってた民衆に刺さる。すると針が刺さった人に明らかにおかしな変化が起きだした。