「確かに何かやばいことを言ってるけど、一応聖剣は元に戻ったし……後はほら、勇者と聖剣の問題だし? 私はそんな二人の意思を尊重したいね……うん」
そう言ってとりあえずは現実逃避に逃げ込むことにした。そもそもが聖剣とはそこまで私、繋がり薄いし、勇者があの声を聞いてるかは知らないが……まあそこに二人の問題た。
『お前なんかに娘はやらん!!』
とかいうつもりはない。相思相愛なら良いんじゃないか? 別に相思相愛じゃなくても上手くいってれば何も言うまい。でも勇者ってイケメンだからね。
はっきり言って今も宮殿ではかなりの女性達の心を掴んでる。たまに仕事に乗じて勇者を観ようとしてる人が居たり、宮殿の女性達の間では勇者と出会うと一日が素敵に過ごせる――的な話が起ってるからね。
それを考えるとあの聖剣が暴走しないか心配だ。まあ今までも大丈夫だったんだし、そういう有象無象は聖剣は気にしていないのかもしれない。それだと助かる。
「くっ! やめろ!! その力を俺の中に伝えるな! 奴が……奴が目覚めるだろうがぁぁぁぁぁ!!」
さっきから一人で叫びながら何か演劇っぽいことをやってる黒い勇者。いや、当人はいたって真面目だよ。でもさ……一人でジタバタしてるんだよ。そう端から見たら……ね。一人でジタバタとして、変なことを言ってるようにしか見えないから、事情知ってないと『何やってんだあいつ?』状態だよ。
はっきり言って笑える。
「どうなの? 勇者の奴、戻ってこれそう?」
『とうでしょうね。聖剣が勇者様の魂を持ち上げてるようですが……』
私とAIは既に観戦モードになってた。いや、だっで黒い勇者も自分のことで大変そうで、こっちに向ける意識なくなってるからね。何か補助出来れば良いんだけど、結局の所あの体は勇者の物だから、下手に傷つけるのも気が引けるんだよね。
だからもう見守るしかないかなって……
「デコピンで頭を小突いて今の奴の意識を刈り取ったらある意味助けになるかな?」
『なかなか面白いアイディアですね』
珍しく私の意見にAIも同調してくれた。実際面白がってるだけのような感じだけど、まあやってみる価値はある。問題は力を込めすぎて勇者の頭が体と分離しないようにしないといけないって事だ。
私が腕を伸ばしても全然気づかない黒い優者。その頭に照準を合わせて、指の長さも計算。そしてその力の込め具合も割り出す。
「やめろ!! この体はもう俺の物なんだ! ようやく手に入れた最高の体!! これを明け渡すなんて絶対に――」
何か言ってたけど、私の指が後頭部に直撃した瞬間、優者はおとなしくなった。そしてそのまま地面に倒れる――かと思いきや、白い力が体を包んでその姿が変わり出す。