おじさんの家はそこそこに大きい屋敷……と呼べるくらいにはデカかった。実際、おじさんがこのサーザインシャインインラでどれだけの地位にいるのかわかんないけど、「おおー」と思うくらいには大きかった。部屋数とか、きっと両の手では足りないほどにはあるよ。でもそんなでもおじさんいわく――
「こっちに居を構えてると、それだけで出世なんてできない。結局は賄賂と世襲制だからな」
――ということらしい。どうやらどれだけ大きい家に住んでいようとも、橋のこっちがわ、つまりは市街の方に住んでるとそれだけで下に見られるらしい……全く、仕事できる人間を正当に評価しないとか、やる気なくなるだろうにね。
まあそれでも実際全然なんとかなっていってたんだろう。どうやら今……本日まではこのサーザインシャインインラには教会の手厚い補償があったみたいだから。どうやらここ何年も……いや何十年も、そもそもサーザインシャインインラには砂獣が襲ってきたなんてことはなかったらしい。それってつまりは教会はある程度の砂獣の制御の仕方をわかってるってことになる。
てか今だってこの波はきっと教会のせいだと私は思ってる。確証なんてないが、タイミング良すぎだからね。それにイシュリ君のこともある。自然発生した波に合わせたのかもしれないが……でもそれならサーザインシャインインラの周りを囲んでる砂獣が今なお襲ってこない理由が説明できないからね。
てか世襲制ってまじでろくなイメージないよね。だって偉いのは……というか優秀だったのはその人自身であって、その息子や娘が優秀であるって確証って実際どのくらいあるんだろうか? 統計とか誰か取ってないのだろうか?
世襲制ってだいたい腐敗に繋がっていく気がする。だって一番の最初の人はそれこそ激しい競争の中から勝ち抜いて、そこまで行ったわけじゃん。でもその後は、もう安泰ってことに世襲制はなる。そうなると、もう頑張る必要なんてない。
実際一番最初に偉くなった人からしたら、自分たちの家族に苦労をさせないためにそういう制度を作るのはわかる。でも……もっと先を見据えると、世襲制って国とか、もっと小さく言えば組織とかを終わらせる悪政だよね。
それを裏付けるように、サーザインシャインインラは腐ってるしね。
おじさんのお屋敷にはかわいい女のお手伝いさんも、格好いい執事とかはいないらしい。なんか帰って来るなり「旦那様! それにぼっちゃん!!」とか驚いたおばあさんがいた。この広い屋敷をこのおばあさんだけで管理してるんだろうか?
それはなかなかにブラックな職場だね。
「イシュリを部屋まで頼む」
「ああ……ぼっちゃんなんで……ここを出ていったときはあんなにも元気でしたのに……」
おばあさんは目に涙を浮かべてイシュリ君をベッドに連れて行く。
「旦那様、今は神父様をお呼びすることが……」
「分かっている。大丈夫だ。治療できるものが来てくれる手筈になってる」
そう言って、おじさんはこっちを見る。きっとその視線は「ここまでこれるな?」ということだろう。まあそれは大丈夫だ。だってそう――
『もう付きましたよ』
――その瞬間、扉がトントンと叩かれた。この誰もいない中でノックなんてするのは勇者しかないない。てかついたって報告はさっき受けたのだ。