カランコロン――と耳障りのいい音を響かせて扉が空いた。店内にはおしゃれなBGMがかかっていて店内は駅前ということもあって、かなり賑わってる。雰囲気のいい空間を作り上げて、それを目当てに来る人だっているんだろう……なんかインスタ映えする空間だった。
普段はこういう所には寄り付かない野乃野足軽はちょっと気圧されてる。それに……だ。ここは学校への最寄り駅で、そしてここはその駅の周辺カフェなわけだ。当然だが、ここには野乃野足軽や山田奏が通う学校の生徒達だっている。普段は部活でこんな時間にここにいることはほぼ無いであろう山田奏が入ってきた。
それによって、にわかに店内にいた女生徒がざわつく。
(やっぱりこの人凄いな……)
野乃野足軽は素直にそう思った。なにせ野乃野足軽も店内に一緒に入ってきたのに、女生徒たちの視界には明らかに山田奏しか映ってない。別にそれに不満がある野乃野足軽ではない。そもそもが下手に山田奏と親しい……とか学校で思われると、厄介だと野乃野足軽は思う。
なにせ野乃野足軽の狙いは平賀式部である。今までほぼ無に近かった野乃野足軽の人間関係が最近複雑化してるようで、寧ろ深刻だ。
「あの、山田先輩ですよね?」
「ああ、そうだけど? 君は確か〇〇さん?」
「ええ!? 私の事知っててくださったんですか?」
「確か去年――――」
「あの先輩! 私――」
「ああ、君は確か――」
「あの!」
それからそんな問答が少しの間続いた。
(え? こわ……)
野乃野足軽はドン引いてる。何が起こったのか……眼の前で見てるはずなのに、それが理解できないでいる野乃野足軽である。
(きっとああいう所もあの人間がモテる由縁なのでしょうね。誰かさんとは違って)
(いやいや、あれで呆けてるのはおかしい。恋してるから呆けられるけど、普通に考えたら異常だろ)
そう思う野乃野足軽がおかしいのか? この空間では野乃野足軽が異常なのかもしれない。ただ話しかけてる女生徒の事をなぜか知ってる山田奏に疑問を持つのは野乃野足軽しかいなさそうだし。