「俺たちは通じ合ってる」
「それをいう根拠って何よ」
ストーカーの定番みたいなことを言う山田奏に対して、朝倉静香はもっともなことを言ってると野乃野足軽は思う。だってストーカーだって勝手に思い込んで自分は恋人とかと言い張るだろう。
流石にまだそこまで山田奏はいってないとしても、それと同じ匂いを感じる事ができる。
「根拠なんて……俺たちの間には必要ないさ」
「それってかなり無理なことを言ってるって自覚して。どうしたの山田? あんたあの子の事になるとおかしいよ?」
「そう思われても仕方ない。だって、俺たちの事は俺と平賀さんにしか分からないことだから……」
(いやいや、平賀さんだってわかってないって……)
トイレから覗き見てる野乃野足軽はそう突っ込む。たって平賀さんは山田奏に対して、こういってはなんだが何の思いもない。それは野乃野足軽の望み……とかではない。事実そうだと野乃野足軽は思ってる。
山田奏はイケメンだ。それこそ、誰もが認めるくらいには格好いい側……見た目をしてる。だからこそ、実際誰かしらも山田奏に対して好意的な感情をもちそうではある。だってそれがイケメンや美少女というものではないだろうか?
イケメンや美少女は通常のフツメンやブサイクとは違って、高感度がプラスの状態から始まってる――と思って間違いない。でも……だ。でもそれでも、山田奏に対して、平賀式部が何も思ってないのはまちがいない。
少なくとも……
(好感度があるわけはないよな……)
寧ろマイナスだと野乃野足軽は思ってる。それでも、それでもきっと山田奏はそれを受け入れる……なんてことはないだろう。この感じを見てる限り、山田奏は自分が思い描いてる……というか信じてることを絶対に曲げそうにない。そしてそれはきっと朝倉静香も感じてる。
「山田がこんなヤツだったなんて……」
「俺はこんなやつだよ。失望してくれて良い」
「あんたのその、平賀式部しかいらないなんて態度……気に入らない」
そういった朝倉静香は扉の前から離れて山田奏へと近寄っていく。それに対して野乃野足軽はワクワクした。だってこれって……
(ついに山田先輩に愛想をつかしたんじゃ……)
と思ったからだ。イケメンが愛想を尽かされる瞬間なんてそう見れるものじゃない。しかも朝倉静香はギャルである。真面目なギャルだけど、ギャルだ。その心は強い。男に対してだって恐れたりしてない。
もしかしたら一日で二回くらい山田奏は打たれるかもしれない……とかいうワクワクを野乃野足軽はきたいしてる。