「はい、完成。どうかな?」
そういって手鏡を見せてくれるお姉さん。高校生くらいのそのお姉さんがニコニコしてる。彼女は手鏡を受け取って、自分の顔の前にもっていく。
「う……おぉぉぉお」
それは一体どういう感情なのか。感嘆なのか、期待外れなのか、それとも驚愕なのか、それとももっと別のなにかなのか。彼女は左右からじっくり見たり、目元や口元に指をもっていったりする。
「ダメだよ。触ったら落ちちゃうよ」
「なんかむずむずする」
「初めてだもんね。でもおしゃれは我慢だからね。かわいいよ」
「かわいい……」
目の前の彼女は自分を見てるはずなのに、それが信じられないでいた。なにせ鏡に映る自分自身が全く違うからだ。きつめだった目が二重になることによって大きくなって、さらにアイラインとかそんないろいろな技術を使ってか、丸くなってる。それにいつもよりも大きく見える。ファンデーションとチークを使うことによって、肌がきれいに見えて、わずかな赤身が健康的な印象を与えてくれてる。あと、ほくろとか染みだって消してくれてる。
眉も整えられて、そして唇は平べったい感じだった筈なのに2倍くらいにぷっくりしてる。そしてキラキラである。もちろんだけど、髪の毛だってちゃんとセットしてる。
そんな複雑なことはしてない。けど見たこともない機械を使って髪の毛を挟んだらふわふわになってた。いつもと違う髪の感触についつい触りたくなるのか、さっきから彼女はさわさわさわしてた。それに前髪もいつもはただ下に流してるだけなのが、今は左に流してかわいいピンでとめていた。耳にもピアスをしてそれもいい感じにアクセントになってる。
「毒々しくないな」
「え? なに?」
「いや、こっちの話……です」
前……こうなる前の記憶をどうやら彼女は思い出してるみたいだ。その時はきっとこんなキラキラとしてるアクセサリーではなくて、もっと禍々しい奴をしてたのかもしれない。それこそ髑髏とか十字架とか……そんなの。
「女の子はメイクで変われらるからね。そんになんと! 今使ったメイク道具は全部百円です!!」
「おおー!!」
彼女はその言葉に思わず立ちあがって中腰になって両側でこぶしを握ってた。するとお姉さんが指摘してくる。
「こらこら、女のでしょ。それに今はスカートなんだから大股開かない」
「ご、ごめん……なさい」
さっきから何やら彼女はいつもと口調が違う。時々興奮したら普段の口調に戻ってるが、意識して女の言葉を話そうとしてるようだ。それはやっぱりだけど、自分の見た目が女の子に寄ったからだろう。それもただの女の子じゃない。かわいい女の子になったから、口調を変えないと……と思ったみたいだ。
今の状況を堪能して受け入れて、そして変化は確実に表れてた。