「えっと、それじゃあいこっか?」
「あっはい――っん!」
「っつ!?」
ようやく合流してさあこれからという面持ちだった野々野足軽と平賀式部。とりあえずホッとして野々野足軽はまずはどこに……という感じで立ててたプランをスマホで確認して移動しようとしてた。
するとその時だった、付いてきてくれるだろうと思ってた平賀式部がいきなり野々野足軽の手を握ってきた。これには、野々野足軽の体もびくっと反応せざる得なかった。
だって……だ。だっていきなりだったんだ。実際何度か、二人は手をつないだこともある。けど、それは互いに高まってた時というか、やむにやまれぬ時というか、そんな場合だっだ。
けど今はどうだ? そんな状況だろうか? と野々野足軽は考える。そう、その場で石になったようにカチンコチンになってた。まるで誰かの力でも食らって石化してしまったのか? と思うくらいには、野々野足軽は歩こうとする直前というか歩きだしてもいいくらいの態勢で固まってる。
それは実際かなりの不自然だ。体幹が極まってるほどの達人クラスなら、もしかしたらその態勢を普通に維持できるかもしれない。でも……別に野々野足軽は力を持ってるといっても体がムキムキかといわれると、そうではない。
寧ろ、野々野足軽はヒョロヒョロしてるといっていい。けど最近は野々野足軽もそこそこ体が鍛えられてきてる。それは何も自然に……ってわけじゃない。もちろんちゃんと鍛えると思ってやってるからだ。
なにせそこそこ野々野足軽的にはガリやヒョロとか言われるのはちょっとしたコンプレックスでもあった。だからそれを解消しようとするのは何もおかしくなんてない。
「お母さん、なんか変な人いる~」
「めっ。自然に目をそらしなさい」
なんかとても無邪気な声が聞こえてきた。やはりというか当然というか、子供が野々野足軽の事を指さして何やらいってきてた。どうやらその固まった態勢はやはりかなり不自然なんだろう。
なら一番に反応しなきゃ行けないのは平賀式部なのでは? と思うだろう。彼女だって普通の状態ならそれを指摘したかもしれない。けど、今平賀式部もそれどころではなかった。
なぜなら……顔真っ赤だからだ。そう、顔真っ赤だからだ! 自身で野々野足軽の手を取ったのはもしかしたら平賀式部にも思わずの行動だったのかもしれない。それは寂しさだったのか、それとも嬉しさだったのか……わからない。けど、平賀式部はどっちかの感情が溢れてきて、とっさに歩き出そうとした野々野足軽の手を取ってしまった。
その行動に自分自身で「何やってるの私!?」ということなんだろう。なので平賀式部は野々野足軽が変な態勢で固まってるのには気づいてない。
「でもあの人変ってより、おかしいっていうか?」
「変もおかしいも同じでしょう。いつも言ってるでしょ? 変な人はスルーしなさいって」
「……うん」
どうやらこの街では『変な人』が増えてるせいで子供にはそういう人達に関わらない・話をきかない・目を合わせない――という三原則が教えられているらしい。まあ正しい。けどそんな『変な人』のカテゴリーに入れられたことは野々野足軽にとってはなかなかに悲しいことだった。
(いつの間にか力を……)
身体をカチコチにしてたのは力が原因だった。最近はいつだってその力で身を固めてる野々野足軽だ。勿論それは安全やら、トレーニングやらの意味合いがあって、野々野足軽は浮くときには身体が「軽くなれ」と思って浮いてる。
ならその逆をしたら、いつだって重力何倍! とかなって身体を鍛えるのに使えるんでは? と思ったのだ。それに四六時中力を使うのは力を伸ばすのに都合が良かった。
野々野足軽の経験上、力というのは使えば使うほどに伸びていく。だからいつだって力を使って身体をいじめるのはなかなかにいいことしかなかった。お陰ですこしずつ筋肉質になってると野々野足軽は思ってた。
実際野々野足軽は浮くと時に「軽くなれ」と念じてるが、身体が軽くなってるわけじゃない。だから鍛えるために「重くなれ」と念じて、実際野々野足軽の体が重くなってるかと言われたらきっと違うだろう。
野々野足軽はどちらのときもその力を全身にくまなく満たしてる。多分それが体を持ち上げるように作用してるか、体に伸し掛かるように作用してるのか……の違いだと思ってた。
「えっと……」
野々野足軽はどうしようかと思った。はっきり言ってこうやって手を繋いで歩くのはとても恥ずかしい。でも……きっと平賀式部は手を離すときっとショックを受ける――て事も野々野足軽にはわかる。
それに今日はこれまでのお詫びの気持ちも込めてのデート。なら……と野々野足軽は腹をくくった。
「いこっか」
そう言って野々野足軽は平賀式部の手をギュッと握り返す。それに対して平賀式部はちょっと安心したような表情をして「はい」といった。その幸せそうな笑顔に、野々野足軽がドキッとしたのは内緒である。