「あっ」
朝、寝不足気味な顔を洗おうと野々野足軽は部屋の扉を開けた。するとちょうど同じタイミングで向かいの扉が開いた。そして視線がかち合う二人。
向かいの扉からでてきたのは野々野足軽の妹の野々野小頭だ。彼女も眠そうな目を擦ってる。
(まさか……こいつも?)
そんな事を一瞬思う。だって完全に動作がシンクロしてたからだ。そこはやっぱり兄妹なんだな……とか思わずに、真っ先に『力』を疑ってしまうのは野々野足軽の頭が『力』に敏感になってる証拠だろう。なんでもかんでも『力』を疑ってしまう。そんな訳はないのに。
(そんなわけ無いでしょう。普通にエッチな動画でも見て夜更かししてたのでは?)
(そんな……だって小頭は……)
(今の中学生なら普通らしいですよ)
(まさか……)
なんというか最近の中学生事情をしってショックを受ける野々野足軽だ。確かになんか……そう、注意深く見てみると、なんか野々野小頭の顔は火照ってる様にみえるし、ちょっと呼吸も荒い。
でも……野々野足軽は複雑だ。だって妹である野々野小頭の事は今でも子供……だと思ってた。こんな時に「お前もだろ」とかいうのは無粋である。
だって野々野足軽が言ってる『子供』というのはそれこそ十歳以下の時である。本当に小さな時の印象のままなのだ。確かに最近は生意気である。けどそれでも、野々野足軽にとっては野々野小頭は小さいままの妹なのだ。
それはあたかも親にとって子供がいくつになっても子供なのと同じ感覚だった。
「なに?」
ぎろっと睨んでくる野々野小頭。まるで「朝から最悪」といても言ってるかのような目つきである。つい先日なんて「お兄ちゃんお兄ちゃん」と頼ってきたのに……とか野々野足軽は思う。勿論そんな事は野々野小頭は言ってない! というだろう。実際そんなに可愛らしくはいってなかった。
けど野々野足軽の中では小さな妹がお兄ちゃんである自分を頼ってきた――という美談になってるのである。なにせ脳は記憶を美化するものだからだ。
「別に」
野々野足軽も野々野小頭も互いに言葉を交わしても不利益しか産まないと……そんな風に思ってあるき出す。同じ方向に……そして同じ階段を何故か狭いのに横並びで肩で押し合いながら降った。
勿論その時、文句をお互いにいいあってる。
「狭い」とか「うるさい」とかである。お互いにお互いに言ってると言うよりは互いに小さく文句を言ってる感じだ。そしてお互いに同じところにむかった。洗面台である。そして二人で顔を洗って、先に野々野足軽がタオルをつかった。