「あの指輪は昔になくしたと思ってた指輪で、出どころだってはっきりしてる。少なくともあの人はなんの関係もないわ」
内心の興奮は隠して、平賀式部そうはっきりと言い切る。流石にそこまで言われると野乃野足軽もあれはそういうものなんだ……と思ってしまう。少なくとも、別に今の平賀式部の言葉を否定する理由もないし……けどそうなるとどうして? ってことになる。
「どうしてそんな物をあの人が? 山田先輩からもらったものじゃないんだよね?」
「うん……なくしたと思ってたからびっくりした」
だからってなかなかにすぐに手が出る……っていう女子は早々多くないと思う野乃野足軽だ。けどそれだけあの指輪が平賀式部にとっては大切なものだったんだろう……と野乃野足軽は勝手に思った。
そしてそんな物を盗んでたなんて……と野乃野足軽はもしかしたらあの爽やか笑顔に嘘はないのかも……と思いだしてたが、考えを改めることにした。
「となると……あの人が盗った……とか? あの人にあの指輪を見せたり話したりしたことは?」
野乃野足軽はそう聞いた。だってあの時、見せたあの指輪は別段豪華とかキレイとかそんなのはなかった。はっきり言って子供とかならもっとキラキラしたものが好きだろうと思うし、もしも盗むのだとしても、もっと価値がありそうなのを子供は盗むような気がする野乃野足軽だ。
(それに二人は上流階級だし……)
もしかしたらそこらの庶民の子なら、あの指輪でもうれしがるかもしれない。でも平賀式部もそして山田奏も上流階級の家の子だというのは確定してる。……となると、彼女たちの周りにはブランド品とかがあるわけで……宝石だって色々と見たりしててもおかしくない。
そんな子が、ただ指輪ってだけで、あんな物を盗むだろうか? 物の価値……としてではなく、それに付随してる何かで盗った……となると……そのきっかけはきっと平賀式部が与えるんでは? と野乃野足軽は考えた。だって山田奏が最低なやつだとしても、実際なんの価値も感じなような指輪を拾ったりしたら大人にいうか、警察に届けるか……もしもそのまま持ってたとしても、その存在自体を忘れてもおかしくない。
それを後生大事にとっておいたのは、山田奏があれが平賀式部のものだと知ってたからだ。実際どの時点で知ってたのか……とか謎だが。
「私の記憶ではないけど……でも昔はあれを首に掛けてた時があるから、もしかしたら見た事はあるかも。でもそれもだいたい服の中に入れてたと思う」
どうやら平賀式部は直接は山田奏にあの指輪の事を知らせたりはしてないらしい。本当にただの近所の人……だったみたいだ。でも幼い時はあの指輪を首から下げてたらしいから、もしかしからってことだが……それを見てた? 可能性はないわけじゃない。
でもそれなら、手に入れた時点で適当な理由をつけて返したほうが接点を持てたのでは? って野乃野足軽は思う。それこそ、それがきっかけで仲良くなる……とか出来たかもしれない。
もしもそうなってたら、山田奏自身が言ってたように、幼馴染――となれた可能性だってある。けどそういう風になってなくて、なぜかこのときまでそれを大事にとっておいた?
(あの人が何考えてるのかわかんないな)
野乃野足軽はなんか山田奏という人物が周囲の評価とは違って気味が悪い人間に思えてきた。