「それは……」
「これはきっとアンゴラ氏の石だと思います」
「アンゴラ氏……」
「ああ」
先に廃ビルへとはいっていた猩々坊主へと皆が続く。一瞬三人はためらったが、結局は廃ビルへ……昼に見る廃ビルは、流石に夜ほどの不気味さはない。
けど廃墟特有の不気味さはすでにある。それに……一階は結構酷いことになってる。そして中に進んでいく中で、アンゴラ氏の手に猩々坊主があるかけらを差し出した。
「これは……自分の魔術石ですね」
綺麗に割れたその石は半分にきれいに割れてた。まるで鋭い刃物で切り裂いたかのようだ。この場所でこんなキレイな断面のものは他にはないだろう。なにせ周囲はボロボロで割れたガラスとか、崩れた棚。それと不良とかがやってきて捨てていったのか、沢山の空き缶や空き瓶やお菓子のかす。
ごみ箱にさえ入ってるものなんてない。そんな中、異質さを放つこの石。本当ならこんなゴミだらけ、瓦礫だらけの中でこんな小さな小石を見つけるなんて至難の業だろう。
だけどなぜか猩々坊主はすぐに見つけた。それをアンゴラ氏は『多分この石にはまだ力の残滓が……』とかおもってる。
「某達だけが、右往左往してたのならこれはおかしいのではないか? 何もならずに、この石もそこらにあるはずだ。それがこうなってるということは……」
「俺の力は本物ってことだな」
「……まあそれもある」
真剣にそう呟いたアンゴラ氏にちょっと思うものがあるような猩々坊主だ。けどそこは突っ込まない。でもアンゴラ氏にとっては自身の覚醒した力って奴はとても重要だった。なにせ昨日の夜の出来事が全てが化かされた結果だったら、彼の力も……ってことになり得た。
でもこうやって彼が投げた石は明らかになにかによって無惨な姿になってしまってる。この事実をアンゴラ氏は噛み締めてる。
「それだけじゃなく、きっとここには何かがいた……それは明らかだ」
「ああ……」
「そうですね」
「そ、その通り……」
それを認識すると、昼間だというのにこの場所が一段階……いやもっともっと不気味な場所の様に思えてくる四人だ。
「は、早く出ましょう……」
そんなふうにミカン氏がいった。彼は明らかに怯えてる。それにチャブ氏も……そうだ。
「そうだ」
すると猩々坊主がなんかいきなり奥までいった。この状況で一人で行動できるなんて……と三人は思った。けどここで対抗心を燃やす男もいる。それが力に目覚めた(と思ってる)アンゴラ氏である。
「俺もちょっと確かめたいことがある」
別にそんなものないが、とりあえず二人のそばを離れるアンゴラ氏である。彼はその力があるのだから、堂々としてないといけないという自負が目覚めてた。そしていつも堂々としてて、引っ張る位置にいる猩々坊主に対抗しようとしてた。
「むむ、アンゴラ氏はどうした?」
「なにか確かめたい事があるようです」
「ふむ……彼の力は本物だからな。何かあるのかもしれん」
戻ってきた猩々坊主。三人は昨日のアレを見てるから、アンゴラ氏の力は本物だと思ってる。だから三人ともアンゴラ氏なら……と思ってた。
「そういえば猩々殿、一体何を?」
「ああ、そうだ。チャブ氏、これを」
「これは……」
そう言って猩々坊主が差し出してきたのは、この場所にチャブ氏が置き忘れてしまってたダウジングの棒である。それをどうやら奥に行って猩々坊主は取ってきたくれたらしい。
けど何やらチャブ氏は複雑な顔をしてる。昨日自分が何を言ったのか、きっと思い出してるんだろう。だからこそ……このダウジングに意味なんて……と思ってる。
けどそんなチャブ氏に猩々坊主はいうよ。
「これはお主の大切なものだろう。これがなくても良いのかもしれんが、これを選んだのはお主だろう?」
そんな言葉で、猩々坊主はチャブ氏を見つめる。そして強引にダウジングの棒を押し付けてくる。
「はい……すみません」
「それはこいつにいってやれ」
そういってダウジングの棒を見る猩々坊主。なんとも粋な坊主だった。