「止まるな! 近づくんだ!! 奴らはその隊列を崩してるぞ!!」
そんな事を軍の隊長……いや大将とも言える人がいう。彼はヒゲを蓄えた恰幅のいい男性だ。この世界の騎乗動物にのって、先頭……ではなく中腹から声を張り上げてる。
まあだからって普通なら今までにない位の大規模な軍隊である。端から端までに声を届かせる? なんてのは物理的には不可能だ。
けどそこは私たちの技術がある。近くにドローンを侍らせて、その声を拾って他のドローンでワイヤレスで伝える。それで全ての指示がちゃんと軍の隅々まで届くようにしてあげてるのだ。
ジャル爺が一点突破して突っ込んだおかげで、実際教会側は混乱してる。なにせ……だ。なにせこちら側の奴らにいきなりこの戦力を突破されるなんて思ってなかったんだろう。確かに私たちがいるが、それでも……だ。それでも長年下に見てた奴ら――という印象を教会は拭えてなんかなかった。いや、ヌポポを筆頭に上の奴らは私たちを最大限に警戒してるだろうし、その通達くらいはしてるとおもう。でも……だ。でも、それをどう受け取るかってのは個人次第だ。
自分たちの事をきっと選ばれた奴ら……的な特権階級の意識があるやつらが中央の教会の奴らなんて大半だろうしそんな奴らはこの状況を信じたくなんてない。でもまだ一人である。まだ一人に突破されただけ……きっとそんなふうに思ってる奴らが大半だ。
「あいつが突出してただけ」とか「あれがきっと警戒を促されてたやつに違いない」とか勝手な事をほざいて自分たちの無能さを認めようとしてない。そんな中、更に迫ってくるアズバインバカラやら地上の連合軍。教会の大半の奴らはまだそれらを烏合の衆と思ってた。もしも本当にあれが烏合の衆なら、こんな教会の奴らの前まで来る――なんてことも無いだろうに、それすらも考えられない。
だから、気づいたときには遅いんだ。
「うわああああああああああああああああああああああ!」
「痛いいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?」
「いやああああああああああああああああああああああ!?」
そんな断末魔の叫びが上がる。勿論それぞれで教会の奴らも目の前の奴らを倒そう……いや、殺そうと魔法を放つ。それは手のひらから見えない風の刃が出てくるという人を殺すのにはとても適した魔法だ。どうやら結構簡単な魔法らしくて、目の前の相手に使うのは便利らしい。
それに……だ。それにその魔法はそんなに遠くまで届かないから、こういう場所で闇雲に打ってもそれなりに被害が少ないって利点も有った。そして教会の奴らは思ってただろう。
『見えない刃を避けられる訳がないだろう』
でも実際はどうだ? そこら中から上がる断末魔の叫びがそれが間違いだったと如実に示してた。