イシュリ君の反応の無さにお父さんが気づく。何度もその名前を呼んで肩を揺するが彼が反応することはない。だから何度も何度もその名を繰り返してる。けどやっぱりイシュリ君は彼方をボケーと見てるだけ。てか口からはよだれだって出てる。
どうやら口を閉じてられてないらしい。そんな様子に気づいたお父さんはこっちを睨んでくる。いやいややめてよ。私は助けただけで、私がやったとか言い出さないでよ。そもそも外傷はあんたの同類がやったことだし、その様子はきっとこのサソリが原因だ。
「なんで……こんなことに」
彼は私に何かをぶつけることはしなかった。感情が先走ったら犯人じゃないとわかってるやつにだって暴言を吐いてしまう――それが人間というものだと思うけど、どうやらこの人はそれをぐっと堪えることが出来る人らしい。
好感度的に少し上がったよ。だからかな、ちゃんと話したほうがいいかなって思った。
『その子は多分ですけど、頭に相当なダメージを追ってると思われます』
「頭に?」
そう言っておじさんはイシュリ君の顔を覗き込む。確かにイシュリ君は顔にも外傷がある。けど、私が言ってるダメージというのはそれではない。内部のことだ。
「ダメージを負ってるのは外部じゃなくて内部です。実は……これが彼の頭の中にいたんです」
そう言って私はドローンが捕まえてるサソリを見せてやった。
「それは……さすがに無理だろう!!」
なんか怒られた。いやわかるよ。だって頭に入ってたとするなら、このサソリでかすぎるっておじさんも思ったんだろう。なにせイシュリ君と同じ顔のサイズくらいあるからね。普通に考えたらこんなサイズのサソリが入るわけない。当然だよ。私だってこれが頭の中に入ってたんです!! ――とか宣うやつがいたら「嘘つくな!!」って手が出る可能性もある。
だって物理的に入らないじゃん!! けど私はこれが耳から出るところを見てるからね。納得できる。とりあえず納得させるために、言葉では埒が明かないから、ドローンで録画してた映像を見せることにした。
いきなり映像が出てきたことにびっくりしてたけど、すぐに映像に夢中になってくれたよ。細かいことは気にしない精神って大事だよね。
「そのサソリが、息子を操ってこの街の結界を壊したと……そういうことですか……」
「おそらくは。きっとこれは教会の差し金でしょう」
「そちら側ではないと?」
「そちら側って私達ですか?」
「わざわざそれも回収しに来たのでは?」
なるほど面白いことを考えるね。いや、普通に考えたらそうなるか。確かにこの状況、私も怪しい。
「私が実行犯なら、回収なんせずに見殺しますよ。だってこの程度の力、微々たるものですしね。実際、教会はあなたたちのこと、見殺しにしようとしてるんでは?」
私の言葉にはおじさんは唇を引き結んだ。