朝、目覚めるといい匂いがした。その匂いだけで、同室の同年代の奴らは飛び起きて食堂へと走り出す。自分も眠気はすぐになくなった。腹がなって、エネルギーを体が求めてる。
(それもそうか……)
――と思う。なぜなら昨日もたくさん働いたからだ。アーチ状の窓から差し込む日差し……その先からは喧噪が聞こえて来てる。けどまだ皆が目覚めたばかりのはず。わずかな誤差はあるとしても、皆がこの明の時間に目を覚ます。
だからこれからもっと、周囲から音がしだす。窓の向こうを見てもまだ慣れない。なにせここにきてまだ三日くらいだからだ。けど不満に思ったことはない。なにせ……
「今日もいっぱい食って働くか」
――そう、ここでは食うことに困ることがないからだ。六人部屋の部屋からでて廊下に出ると、同じように三日前くらいからここに住んでる奴らが大量に別棟の食堂へと向かってる。
ここにいる奴らは皆世代はばらばらだ。けど女性はいない。女性は別の棟いるらしい。そして別の仕事をしてる。それに……だ。それにここアズバインバカラへと避難してきた人たちはこの建物だけではない。これ以上の人たちがいるらしい。
でも……だ。でも……
「飯だ飯だ!!」
そんな風にテンション高く食堂へと走っていく奴らがいる。でも実際誰もが駆けだしたって不思議じゃない。実際、三日たったからまだ落ち着いてるが、それこそここに来た当初はこれほどの人数がいるんだ。ゆったりとなんてしてられなくて、皆が走ってた。そして我先に……と食べ物を求めてた。
その日は皆が腹いっぱいに……それこそ腹に入らなくても、詰め込んで仕事にならなかったくらいだった。でも責められることも、次の日は食料が無くなるなんてこともなかった。
ここに避難してきた皆にはそれが衝撃だった。いくらでも食べてもいいし、いくらでも水もつかえる。それだけでもう夢のようだと皆は思った筈だ。
なにせここに避難してきた皆は少し話を聞くだけで同じような境遇だったということが分かった。今日食べることもできなくて……明日に希望を見ることもできない日々が続いてた。水を口にすることもできずに、ただただ明が終わるのを待つしかなかった。
宵がくれば何もかんじなくなる。そして明がまた来たら、体力が戻ってる。だから生きることはできてた。ぎりぎりだけど。でも満腹感とかが満たされるわけはない。何も食べてないし飲んでもないが、体力だけはもどる。そうなると、あとは動けるうちに奪うという方向性にいくしかない。
だから悲惨な状況だっだ。けどここはどうやらそんなのとは無縁なようだ。
トレーを持って列に並ぶとそのトレーに食料を載せてくれる。そしてそれをもって近くの長テーブルへといく。各々勝手に座って、夢中で食べる。それこそ最初は食べることしかしてなかったが、今は食べながらしゃべる……ということもできるようになってて、そこかしこで笑顔が見えて陽気な話が聞こえてくる。
「よっ、こっちこいよ」
そんな風に自分も声をかけられた。体をよけてわずかなスペースをあけるそいつ。そこに体を滑り込ませた。この場所で新たに出会った友達。けどきっとここでなら、もっともっとたくさんの出会いがあるんだろうって……そしてそれはきっと充実したものだろうって確信がある。
そう思って食料を口に運ぶ。ああ、今日も生きてられる。