弓によって大きくのけぞった花の砂獣。その隙に一斉に皆が動く。
「撃てええええええええ! 撃ちまくるんだ!! 案ずるな
!! 腕が取れてもネナン様がくっつけてくれる!! 力の限りを絞り出せ!!」
弓隊の部隊長……というか、弓隊は本体の近くにいるから本隊をけん引してる三大将軍の一人が指揮を取ってる。その人がなんかとても残酷というか……問題的な事を言ってる。確かにネナンちゃんは治してくれるだろう。
それにネナンちゃんならそれくらいは普通にできる。けど、はっきり言って今のネナンちゃんはそんな立場ではない。今のネナンちゃんは『聖女』である。それは教会が定めた立場の聖女ではない。そもそもがミレナパウスさんは教会では聖女だけど、こっちの人たちはそんなの認めてなくて、実質彼女の寝返り? は秘匿されてる。
聖女の反抗……寝返り……それはとてもいいプロパガンダに使えそうだったけどね。聖女も離反するくらいの教会――という感じでね。聖女にだって見捨てられてるんだあ!! って言えるしね。けどそれはやらなかった。多分、聖女ってのを二分したくなかったんだろうと私は思ってる。
もっと特別な存在として、扱いたいから、立った一人の聖女――という立場をネナンちゃんに与えたんだ。それに……地上の人々は『聖女』なんてのはそれこそ伝え聞く中の物語でしか知らなかったからね。ミレナパウスさんも中央では有名なのかもしれないが、地方都市……それこそアズバインバカラとかジャルバジャルとか他の街にまで来たことなんてなかっただろう。
そもそもあのダンゴムシみたいなので初めて地上に降りたらしいからね。それなら、誰も教会が聖女を擁してる……とは地上の人は知らないわけで、だからこそその存在はこのままなかったことにして、その唯一性をネナンちゃんに持たせたのだ。
だからこそネナンちゃんの立場は本当に特別でその地位はいうなれば、王様だって頭を垂れる……教会の教皇とかとある意味で同列というか……いや今は教会よりも明確に王が上という立ち場を取ってるから、王様とネナンちゃんは同格くらいである。
そんなネナンちゃんの許可も取らずに子供だからと勝手にその名前を使うなんてのはもってのほか。だから王様直々にその発言をした大将軍の一人に叱責がいくよ。
「ネナン殿の力は我らが光。だがそれを我々がむやみやたらに求めることは出来ない。それに、彼女を利用するようなことは許さないといった筈だぞカプリコ大将軍」
「す、すみません! ですが今、その手を緩める訳には!」
確かに軍の指揮官としてはきっと彼『カプリコ大将軍』は間違ってないんだろう。でも注意はしとかないと王様として、そして周囲の人たちに示しておかねばならない。
聖女であるネナンちゃんがどれだけ寵愛されてるのかってことを。
「大丈夫です! 私にできることなら、苦しむ人を助けたいです!」
大人の思惑なんて関係なく、そんな風に言えるネナンちゃんに皆がニコニコしてる。