「さて、やるわよ。そろそろ帰らなくちゃね」
「あぁ、そうだな」
「聞こえてるの? あんたには?」
「ああ、俺たちには繋がりがあるからな」
そんな話を鬼たち二人はしてる。巨大な猩々の胴体の下、軽口をたたきながら鬼男はその右腕を……そして鬼女はその左腕に力を集めてる。鬼女は主に足を使ってたはずだけど、今は鬼男に合わせてるのか、その力は腕に集まってる。
そして二人の力は青と赤として現世に現れてる。それぞれの腕を包むように新たな力で腕を形成してるようだ。それに二人の間。鬼男と鬼女の間は少し開いてるわけだけど、そこで二人の色の違う力がぶつかり合ってた。
いや、少なくとも最初はそんな風に育代には見えてた。でも……少しずつそれは違っていって、今はバチバチじゃなくうねうねと混ざり合ってる。二人がどんどんと濃くなっていく力の色に飲まれていくと同時に、二人の力は実態を持っていくようだった。
二人の赤と青の力が混ざり合って現れたのは紫色の大きな鬼。それぞれ毛色が違う腕をもったその鬼は三つの角を持ってるように見えた。そんな腕を支えに上半身を持ち上げる。そしてそのまま、頭の角を押し付けて、まるで闘牛が対象を吹き飛ばすようにして、門から出てる猩々の体を跳ね上げた。猩々の影がなくなって、月の光が紫の鬼を照らす。
「あがああああああああああああああああああああああ!」
「まずい……時が……」
反動によって育代の力が猩々から離れてしまった。それによって猩々は自分の状況、いや状況はわからなくてもその体に走る痛みはわかったんだろう。そして怒った。さらには目の前にはいかつい鬼……こいつが敵だと瞬時に判断したんだろう。その大きく長い腕をたたき下ろすように振り下ろしてくる。その攻撃に対して紫の鬼は左腕を前に出す。どれだけ激しい攻撃をするのか? と思ったけど、鬼女の左腕は指を一本向けてくるっと円を描いた。するとどうだろう?
振り下ろされた猩々の腕が鬼の横を通って山を揺らす振動を起こした。
(なんで?)
なんで……そう育代は思った。だってなぜか振り下ろされた猩々の腕が不自然に鬼を外したからだ。それはきっと鬼の仕業なんだろうけど、その仕組みはわからない。そして近づいた猩々の顔に向かって、右腕の拳を鬼は繰り出した。
爆弾が爆発したかのようなそんな音が山を駆け抜ける。思わず耳を塞いだ育代。大きさは圧倒的に猩々の方が大きい、けどそれをひっくり返すほどのパワーがあったんだろう。あまりの衝撃に地獄の門から引っかかってた猩々の体の全部が出てきた。
いや出てきてしまった……というべきだろう。これによって猩々は思いっきり動けるようになった。