「にゃ~にゃ~」
なんかちょうどよく猫が居た。空き缶を転がして遊んでる。それなりに離れてるから警戒とかはしてないようだ。普通に近寄ったら多分逃げていくだろう。人馴れしてるなら大丈夫かもしれないけど。野乃野足軽は力をあの猫の方へと向ける。そして同時に耳にも力を集中させた。
力を猫に向けることで方向性を示して、より猫に集中できる様にしたのだ。聴覚を強化すると、色々とうるさいと野乃野足軽は経験してる。にゃ~にゃ~と言う声が頭に響く。それの解像度を上げるように意識を集中。
「にゃ――にゃ――おらぁ! おらぁ!!」
「全然かわいくないな」
思わず聞こえてきた声にそう思った野乃野足軽だった。にゃ~にゃ~言ってるから猫って可愛いんだなと理解した。
(これって俺も猫語を喋れるのか?)
(猫語がなにか分かんないですけど、思考を流せばいいですよ)
(なるほど……にゃ~にゃ~言う必要はないのか)
とりあえず野乃野足軽は「あの、もしもし」と力を通して猫に話しかける。するといきなり変な声が頭に響いたせいなのか……猫がひっくり返って泡を吹いてピクピクしだした。
「おい!」
野乃野足軽は慌てて近づいた。そして膝をコンクリートについて猫の様子を観る。
「気絶してる?」
(思考が強すぎたみたいですね。この生物には耐えられなかったみたいです)
(そんな風な気はなかったんだけど……)
野乃野足軽は困惑する。普通に……というかなるべく優しく話しかけたつもりだったからだ。
(頭の中にいきなり声がするんですよ? それにこの生物の頭に人の声の情報量は多すぎたのかもしれません)
(そういう事あるのか?)
(頭の大きさが違うでしょう)
(そうだけど……)
情報量とかは考えてなかった野乃野足軽だ。だって動物とかと話せる様になる創作物というのは古くから色々とあるだろう。定番と言ってもいい。野乃野足軽は自分にもそういう事が出来るんだ……とちょっとわくわくしてた部分もあった。
だってそういう作品の動物たちは人と変わらない感じで話してる。そのノリだったんだ。
(あまり理解できてないみたいですね。あそこの生物の声を拾ってみてください)
そう言って勝手に体を操って鳥を見せるアース。電線に止まったあれはカラスだろう。カラスってなんか不気味で好きじゃない野乃野足軽だが、しょうがないから力をむける。てかあのカラス、別に声を出してもないが? とか思った。でもとりあえずやってみる。力をカラスにまとわりつかせて、そして聴覚を強化する。
すると僅かに「ガッガッ」とかいう声が聞こえてきた。どうやらよく聞く「カアーカアー」とかいう声はアピールのためにでもやってるらしい。普段も聞こえない程度で声とか出してるみたいだと野乃野足軽は思った。
そして更にその声の解像度をあげる。
『ゴハン……ホシイ……ホシイ……』
そんな声が聞こえてくる。どうやら飢えているらしい。そういえばカラスっゴミを漁る以外に何を食べてるんだろう? とか野乃野足軽は思った。
(わかりましたか? 生物の思考なんてあんなものです単語の羅列。それを繰り返す程度の知能に文章をぶつけたらパンクするでしょう?)
(確かに……)
どうやら動物たちと楽しく会話……って事は出来ないらしいと野乃野足軽は悟った。現実なんてこんなものだ。そもそもが人間と変わらずに会話するなんて、人間と同程度の知能が必要だろう。けど、もしも動物たちに人間と同程度の知能があったらどうなるか……それは逆に人間が蹂躙される世界になる。
人類がこんなに発展するなんてことはなかったのだ。それが現実だった。