静かな時間が過ぎていく。遠くに聞こえる楽しそうな学生の声。昼錬でも体育会系の部活がやってるのか、それともこの寒空の中で外で運動でもしてるのか、にぎやかな声も聞こえてる。
けどそれは遠い。だからすぐ近くの小さな音が一番大きく野々野足軽の耳には届いてた。箸の上下が奏でる小さな音。耳を澄まさないと聞こえないような咀嚼音。喉を潤した後のコップを机に置く音。
そんなのが野々野足軽には届いてた。普通に平賀式部はお弁当を食べてる。小さなお弁当だ。ちなみに野々野足軽もお弁当を持ってきてる。そのお弁当は机の上に置いたままの手つかずの状態だ。
本当なら座ってお弁当の袋をとって、二段のお弁当箱を広げて……とやるつもりだったが、そんな行動は許されなかったのだ。静かに平賀式部が食べ終わるのを待つ野々野足軽。
その覚悟はあった。けど、どうやら向こうもこの空気は気まずかったのか、平賀式部は箸を丁寧において野々野足軽をみる。
「…………」
「………………」
めっちゃ見てる。瞬きもせずに平賀式部は野々野足軽を見てくる。それに対して何か言った方が………とか思うけど、ここはおとなしくしてた方がいいかな? って思って何もしないことにした。
じっと見られるのはなかなかに居心地が悪い。それからガタッ――と平賀式部は椅子を押して立ち上がった。上からじっと見られる野々野足軽。そしてトストスと野々野足軽の周囲を半周する。左側には机があるからな。
そっち側には回れない。けど後ろからもじっとした視線を感じる野々野足軽である。再び少し歩く平賀式部は、スカートを抱えるようにして膝を折って野々野足軽の横顔をじっと斜め後ろの方から見てくる。視界にぎりぎり入らない程度の位置。でも野々野足軽にはわかる。けどそれは別に超能力があるから……ってわけじゃない。
その存在感が彼女の事を強く主張してくるのだ。それに……めっちゃ見てくるし。
「うん、今日は足軽のようだね」
そんなことを平賀式部はいってきた。それにの野々野足軽はびっくりするよ。だって見た目ではわかるわけはない。コピーと野々野足軽本人に差異はない。漫画的に見分けやすくするためにコピーにはアホ毛を追加するとかさ……そんなのはない。見た目では全くコピーと野々野足軽に違いなんてないのだ。
だからこうやって見分けるなんて……そんなことができるなんて思えない。思えない野々野足軽だけど……でも平賀式部はどこか確信めいてるような気がする。彼女はわかってる。今の野々野足軽が本物だって。そして、時々偽物が入れ替わってるって。