「もう諦めたらどうですか?」
そんなことをアイが言う。さっきからアイはゆっくりと動いて、まるで暴風雨の中自分だけがそれを受けてないような立ち振る舞いで焦りなんて全然無い。何故ならと言うと、魔王の攻撃が悉く当たってないからだ。魔王はその荒々しい性格を表すように、さっきから腕を振ったり、足を振ったりしてる。けど……それらはまったくと良いほどに当たってない。
アイがとても特殊な動きをしてる――とか特殊な足さばきで交わしてる――とかでもない。ただ単に、魔王が全部アイへの攻撃を魔王自身で外してるだけだ。魔王にはアイのナノマイクロデバイスとやらがその体を侵食してる。
侵食してると言っても、別にそれで魔王を倒せる物では無かった。無かったが、どうやらナノマイクロデバイスは魔王の中に侵入して魔王の体に悪影響を及ぼしてるのは間違い無い。だって今の状況がそうだ。
魔王がこんなに攻撃を外すなんて本当なら絶対に考えられない事だ。でもそれは事実起ってる。魔王はめっちゃ速く動いて、攻撃をしてるのに、そもそもがその攻撃してる場所に、アイはいないのだ。だからアイは、ゆっくりと歩いて行って魔王の背後でも側面でもとれる。そしてそこから攻撃をたたき込めば良い。
けど恐ろしいことに、アイはアイで攻撃をたたき込めないでいた。手心を加えてる? そんなわけ無い。アイは合理的なAIだ。感情があるかもわかんないし、相手が弱ってるとき、その治療を待つような男気がある訳ない。アイは普通にチャンスですね――とか思ってとどめの一撃を入れる奴だ。
だから今だってとどめを刺そうとその腕をクルクルとさせて魔王の体を貫通させようと何度もしてる。けど魔王はそれをかわしてるんだよね。もうね、それもどういうことかわかんない。
(野生の勘?)
実際、魔王は悉く攻撃を外してる。外してるというか、多分だけどナノマイクロデバイスが魔王の認識に介入して改ざんしてるんだと思われる。体の内側のことだから、魔王自身何をどうしたら良いのかわかんない状態だろう。
一応自身の体の自由を奪う……とかいう最も厄介な効果は気合いで魔王はなんとかしたけど、こういう細かい何か……的なことはどうしたらいいか……何だろう。そしてそれがちゃんと効果を現してるのだから、魔王は本当ならアイの攻撃に無防備なはずだ。
(なのに避けるんだよね)
これにはアイも困惑してるよ。